うさぎの の「の」

何もない日常の足跡

「超能力おじさん」

 ぼくの町には超能力おじさんがいた。
 超能力おじさんは木曜日の午後になると近所の公園にやってくる。おじさんはスプーン曲げや透視、テレポーテーションなど、いろいろなすごい超能力をただで見せてくれるのだ。
 ぼくがはじめて超能力おじさんと出会ったのは、放課後に友達のひろしくんと公園で神経衰弱をしていたときだった。ぼくがカードを選ぼうとしていたときに、強い風が吹いてトランプを巻き上げてしまった。すると何もないところから中肉中背のおじさんが出てきたのだ。年齢は50代半ばくらいだろう。おじさんは、あっけにとられるぼくたちをニヤニヤと笑いながら見た。そしてぼくの前に立ってこう言ったんだ。
「君が次に引きたかったカードは、スペードの8だろう?」
 その通りだった。ぼくはびっくりして口を開けながらひろしくんの方を見た。ひろしくんもぼくと同じ顔をしている。ひろしくんが「おじさんは何者?」と問う。おじさんは「超能力おじさんだよ」と答えてそのまま消えた。拾ったトランプには「また来週」と書いてあった。
 ぼくたちが超能力おじさんのところに通い続けてもう5年になる。そんなある日のことだった。
「君たちに伝えなければならないことがあるんだ」
 神妙な面持ちでおじさんは言った。
「どうしたの?」
「おじさんはね、君たちにずっと嘘をついていたんだ。実は僕、おじさんじゃなくて大学生で、今は卒業してフリーターをしているんだ。隠しててごめんね」
 そう告白したおじさんの身体はふたつに裂け、金髪の若者が出てきた。
 それを見たぼくたちはなぜだかすっかり興が醒めてしまって、それからおじさんのところへは行かなくなった。